19世紀後半、マスティフはイギリスの貴族の大所有地や禁猟区を密猟者から守るため、猟園で番犬として飼育されていた。
猟園の番人達は密猟者を発見した際に、銃撃を受ける事があり、護身のために、より強く勇敢な犬を求めるようになる。
マスティフは勇敢ではあったが俊敏さと攻撃能力に不満があった。
猟園の番人達の任務は密猟者を捕える事であり、傷つけ殺す事ではない。
侵入者を傷つける事なく攻撃し、地面に倒して威嚇を続け、番人の到着を待つ「特技」をもつ犬種の作出が試みられた。
19世紀の終わりにはマスティフは庶民階級にまで普及する事になるが、マスティフの巨大な体のサイズは万人に歓迎されるものではなく、小型のマスティフが好まれるようになっていく。
番犬として有能なマスティフの特性を保ったまま小型化する、この実用性を追求してマスティフとブルドッグが混血され、固定されたのがブル・マスティフである。
ブル・マスティフの名が歴史に登場するのは1860年以降である。
ブル・マスティフは、体重ではマスティフの3分の2程度でありながら、マスティフ同様に勇敢で体力があり、猟場や牧場の番犬に最適な犬種として人気を博した。
無駄吠えをせず、ねばり強く侵入者を追跡する能力はブルドッグから受け継いだが、当時のブルドッグの凶暴さは混血によって緩和された。
ブル・マスティフはマスティフとブルドッグ両犬種の長所を受け継ぐ事に成功した例として注目される犬種である。
ブル・マスティフは逆に、ブルドッグを大きく、より強くする事に成功した犬種として当時盛んであった闘犬の分野で歓迎された一面ももっている。
番犬として有能な犬はいわゆる「気が荒い」犬である。
20世紀の始めに新犬種として展覧会に出陳されたブル・マスティフには、口輪が必需であったと言われている。
異なる犬種からそれぞれの長所を兼備する新犬種を作出する試みは常に成功するものではない。
同胎の子犬の中から問題行動が発現する子犬を排除し、両親から受け継いだ資質のバランスを重視して選別を繰り返し、系統的な繁殖を何世代も続けていく必要がある。
こうした育種の結果、人間にとって好都合な特性が強化される事がある反面、 その犬種の先天的な疾患を固定してしまう危険性もある。
ブル・マスティフの完成には約100年を要したと言われている。
イギリスのブル・マスティフは、マスティフとブルドッグの混血比率がそれぞ れ50%である事を重視するが、アメリカではマスティフ60%、ブルドッグ40%の混血率を理想とする。
ブル・マスティフは長いあいだ番犬としての実用性のみで評価されてきた。
近年のブル・マスティフは見かけの印象ほどに獰猛ではない。
ブル・マスティフの毛色は、猟園の番犬時代には目立たない濃いブリンドルが好まれたが、近年は明るいフォーン色が主流になっている。
性格が頑固で、トレーニングがやや困難である事、テリトリー防衛本能が過剰に強い点が、家庭犬としての普及の妨げになっているようだ。
原産国 | イギリス |
分類 | ワーキング(AKC) ワーキング(KC) 第2グループ(JKC) |
体高 | ♂63.5~68.6cm ♀61~66cm |
体重 | ♂49.9~59kg ♀45.4~54.4kg |