ひとつの犬種を認定する作業は非常に困難を伴う事が想像できる。
特定の地方(原産地)で長期にわたり飼育され固定された犬の分類については、原産国主導で標準書が作られ、他国はこれに従うのが慣例であって、ほとんどの犬種については特別な問題は起こっていない。
ある犬種が公認されるまでには、まずその犬種のクラブ(単犬種団体)が大きな役割を果たす。
過去の多くの例でもクラブの活動の成果がそのまま公認につながっている。
さて、パーソン・ラッセル・テリアはきわめて近縁のジャック・ラッセル・テリアとの分類作業の途上にある犬種と言ってよい。
パーソン・ラッセル・テリアとジャック・ラッセル・テリアがもともと同一の犬種であったとする見解にはいずれのクラブも異論はないが、近年この2犬種を別の犬種として公認させようとする「流れ」は急である。
すでに多くの国でこの2犬種は別の犬種として単犬種クラブが活動しており、各クラブは2犬種の「違い」を強調する事に熱心でもある。
ジャック・ラッセル・テリアの犬名は、イギリスKCの創立メンバーの一人、ジョン・ラッセル牧師が作出した事に由来している。
パーソン・ラッセル・テリアの「パーソン」とは牧師の意であり、やはりジョン・ラッセル牧師に由来する。
ラッセル牧師が作出したジャック・ラッセル・テリアはキツネの巣穴に入り込んで獲物を追い立てる用途に特化して作出された猟犬種である。
基礎犬となったフォックス・テリアにボーダー・テリア、ビーグルなど他犬種の交配を繰り返し、ひたすら猟性能が高められた。
作業能力を最優先したために系統的な繁殖活動が遅れ、結果的にタイプの統一を見ず、スタンダードに多くの曖昧な部分をもつ事になった。
ジャック・ラッセル・テリアが別名「公認された雑種」と呼ばれるように、毛色や毛質、体形、サイズの個体差がおおきくなり、タイプも少しずつ異なっていった。
やがて同犬種のクラブ間でもスタンダードについて見解が別れ始め、同犬のクラブのひとつであった、パーソン・ジャック・ラッセル・テリア・クラブの主張するスタンダードがKCに認められる事になる。
KCは1990年にパーソン・ジャック・ラッセル・テリアとしてこの犬種を公認し、1999年には「ジャック」が削除されパーソン・ラッセル・テリアとなった。
つまりイギリスには、両方の犬種が存在するが、パーソン・ラッセル・テリアだけが公認されて今日に至っている。
この公認劇の背景にあるスタンダードの相違点が、そのまま今日のパーソン・ラッセル・テリアとジャック・ラッセル・テリアの「違い」となっている。
多くの犬種は本来の用途を離れ、大衆化(ペット化)すると、一般に小型化して行くのが常である。
KCが採用したパーソン・ラッセル・テリアのサイズ(体高)は28~38cmとジャック・ラッセル・テリアの25~26cmよりも大きくなっている。
人気犬種となって小型化して行くジャック・ラッセル・テリアに歯止めをかけ、キツネ狩り全盛時代の同犬を保存しようとしたのがパーソン・ラッセル・テリアである。
イギリスでのこの公認のいきさつは外国にも飛び火した。
アメリカ(AKC)では、1998年にジャック・ラッセル・テリアを公認し、パーソン・ラッセル・テリアはジャック・ラッセル・テリアの一種であるとする時代が続いていたが、2003年3月にジャック・ラッセル・テリアそのものの名称をパーソン・ラッセル・テリアと変更した。
日本(JKC)は主としてサイズにより区分し、両犬種を公認犬種としている。
さてこの2犬種は血統書上では区分できたとしても、毛色、体形、サイズの個体差が大きいため、実際の個体を判別する事は困難である。
両犬種はサイズによって区分されているにもかかわらず、お互いにサイズの許容範囲が曖昧であるとすれば、あえて別犬種とする意義は薄れてくる。
「スタンダードから大きく離れた個体を繁殖に用いるのはやめましょう」とアナウンスしている団体もある。
パーソン・ラッセル・テリアは非常に運動能力が高く、猟欲旺盛で攻撃的でありキツネ狩りには不可欠の猟犬であったらしい。
これら小型の猟犬を猟場に連れて行くために「犬袋」というものがあり、袋に入れ、馬に吊るして移動したと言う。
原産国 | イギリス |
分類 | テリア(AKC) テリア(KC) 第3グループ(JKC) |
体高 | ♂28~38cm ♀28~38cm |
体重 | ♂5.4~8kg ♀5.4~8kg |